LOVE SOME STORY

第三話

人と分かちあえなくとも、
楽しみや喜びはちゃんと感じている。

ものを作ったり、絵を書いたりすることがずっと得意で好きだった僕は、これは仕事にしたほうがいいのかなと思い、東京の美大に行くことにした。

するとそこは、自分みたいなヤツらの集まりだった。みんなの中にはみ出し者がいるというより、はみ出し者だらけだった。作るものも、人と違うことをやったほうが褒められた。入ったサッカー部も、先輩が超可愛がってくれて、何をやってもめちゃくちゃ楽しんでくれた。今思えばちょっと過剰ではあったけれど、なんだか楽しかった。

「ここに自分の居場所があったよ」

夏休み家に帰った時、僕は母親にそう話した。

居場所があることによって、表現したものを作品として世に出すことも、ある意味自然に考えられた。ただオリジナリティとか、自分らしさとか、そういうものを求められても、ずっとわからなかった。なんかうまくいかないなという思いを、ずっと抱き続けてきた。

そもそもガラス工芸はテクニカルな技法で、思い通りに作るのが難しく、10年ぐらいかけてようやく、やりたいニュアンスに近づけられるようになった。

そして30ぐらいになり「自分ってこういう人間なんだ」と、ある程度かたちが見えてきた時、じゃあそれを込めればいいんだとなり、自己表現がしやすくなった。

その後、発表した作品には「reflection」というタイトルを付けた。それは自分の心の中で起きているイメージを組み替えたり、構成したり、どう捉え直すかをぐるぐるぐるぐるさせて、パーツも同じようにぐるぐるぐるぐるさせる。造形化は行為から着想を得て、感覚的にはだけど「こうありたい自分」みたいなのを込められないかなと思って、作っていた。

自分の「好き」を語るとなると、理由が必要になってくる。ただそれを言語化して人に見せたり話したりすると、行き違いや誤解を招くこともある。だから理由もなにもなく、誰にも言わず、勝手にひとりで楽しむ「好き」があってもよくないだろうか。

たとえ人と分かちあえなくとも、楽しみや喜びはちゃんと感じている。

だからそれでいいのではないかと、今は思っている。

PROFILE

高橋 漠 | toumei

1986年福岡県生まれ。多摩美術大学でガラス工芸を学び、卒業後は高橋禎彦氏のアシスタント、あづみ野ガラス工房のスタッフを経て、2015年より福岡を拠点に活動を展開。ガラスを素材とする立体作品を発表しながら、2016年よりガラスウェアブランド「TOUMEI」をガラス作家の和田朋子と共に主宰している。

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