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第二話

「心のやすらぎ」と「生きるよろこび」が
ひとつになるようなことを常に意識している。

2021年、福岡にお店を移転した。

山梨にいた時は、森は近いけれど海は遠く、特別なやすらぎを与えてくれる海に憧れを抱いていた僕は、店の内装のイメージを「海」にしていた。

そして今、海が近くにある暮らしを手に入れたことで、新しいお店の内装は「森」をテーマにしている。

なんだかバカみたいに聞こえるかもしれないけれど、これは店における「心のやすらぎ」と「生きるよろこび」のバランスを取った結果でもある。

たとえば家具で「最も美しいもの」と呼ばれるものは、論理的にその美しさ、素晴らしさが検証可能であって、それは盤石な心のやすらぎとなる。しかしもう一方の側面は退屈であり、退屈は感性を鈍らせていく。やはり生きるよろこびが必要、というわけだ。

平たく言うと北欧の家具は、僕にとっては「心のやすらぎ」が強く、一方でアフリカの家具は「生きるよろこび」が強い。北欧家具ばかり選ぶと、安定した快適さは得られるのだけど、どこか退屈に感じてしまう、という具合だ。

これは僕がもともとだらしのない人間で、「完璧な美しい世界」が、いまいち落ち着かない、という部分の影響もあるように思うのだけれど。

ただこれがもし家だとしたら、仮に北欧家具ばかりに囲まれた暮らしも、悪くないものだと思う。家とはそもそも盤石な、心のやすらぎの特区のようであるべき場所で、退屈でも一向に構わないのだから。

でも店、仕事はそうじゃない。
生きるよろこびが必要だ。

「心のやすらぎ」と「生きるよろこび」は、要素としては矛盾している。ただ、それが無理なくせめぎあい、安定するポイントがどこかにあるように思っている。矛盾しているからこそ、バランスが取れる。

ひとつになる、ということ。

それは、音楽においてもそうだ。