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第三話
今日という1日を、全力で楽しむ。
それを感じ、考えながら生きていく。
それぞれに存在している、矛盾したバラバラのものをひとつにする。音楽や歌の力がその役目として、ずっと昔から受け継がれている。
おそらく文明が生まれる頃から、人の身体や打楽器などを使って音楽を奏で、コミュニティをひとつにしていただろう。
身近なところであれば、学校のクラスのみんなで合唱することによって、心がひとつになることもある。
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もしくは朝、学校や会社に行かなくちゃと思っているけれど、ちょっと気が重い。そんな時、通勤や通学の途中で好きな音楽をヘッドフォンで聴くことで、矛盾がひとつになって、ちょっと体が軽くなったりするかもしれない。
それは本当に不思議なことで、僕はそんな音楽が持つ「ひとつになる」パワーに魅せられて、ミュージシャンとして活動を続けている気がする。
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はじまりは、中学生の頃だった。当時の僕は恋人にふられ、苦悩していた。前を向いていきたいけれど、それがままならない。そんな矛盾した自分を適応させ、行き場のない苦悩を消化するために、音楽を作っていた。
その後しばらくの間は「死」への深い苦悩が、創作のテーマだった。自分が死んで無になるという感覚が、どうしても納得できなかった。人間の心と体とを分けたときに、心の方が僕自身のように感じていた。でも体を切り刻んで探してみても、心などどこにもない。そこに、気が遠くなるような矛盾と苦しみを感じた。
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そんな中、大きな救いとなったのが自然の持つ雄大さや万物の繋がり、永遠性だった。それを感じていると、生きるも死ぬも、心も体も人が勝手に作った都合のいい言葉だと、改めて認識する。ひとつになる、という感覚を持てた。その確信を得たがゆえに、ずっと生きやすくなった。
矛盾がひとつになった。
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家の近くには、鴻巣山という小さな山があり、僕はそこに行ってギターを弾くことを日課にしている。もちろん、技術の向上という理由もなくはないけれど、それ以上に、山とひとつになることが単に気持ちいいから続けている。
世界が永遠とはいえ、僕の人生は当然のように終わりが来る。
なのでこうやって人と話すことも本当に素晴らしいことで、途方もない奇跡だと思う。なのでできるだけ無駄にしたくない。だから今日という1日を、全力で楽しむ。どうすれば一番感じられるのかを、考えながら生きていく。
夜、ベッドに入る時に「今日も1日楽しかった」って思えるのがうれしい。
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PROFILE
齋藤キャメル | パタゴニアの南 店主
1995年よりWATER WATER CAMEL のボーカル・ソングライターとして活動を開始。2009年に山梨に「パタゴニアの南喫茶店」をオープン。2016年から活動拠点を福岡へ。2018年にCDと手紙とミニレシピをまとめた『海のまえ、森のなか』をリリース。同年佐賀にコーディネーター、料理番として関わる精肉店とカフェ「TOMMY BEEF」をオープン。2021年、福岡・長丘に「パタゴニアの南」をオープン。