第二話
決めているのは世の中のニーズから
作るということをしないこと。
蒸留酒の作り方はこうだ。四季折々の果実やハーブを発酵させたワインのようなものを作り、蒸留機にかける。熱して液体が蒸気になり、さらに冷やすことでアルコール度数の高い液体が生まれる。そうして植物に潜む鮮烈な香味を引き出し、昇華させる。
たとえばジンはジュニパーベリー、ラムはサトウキビなど使う原料が決まっているものもあるけれど、せっかくここにはいろんな面白い種類のハーブが集まっているので、それらをうまく活用したくて、いろんな組み合わせで蒸留酒を作っている。
ハーブの世界というと、どうしても洋物が幅を利かしているところがある。確かにスイートマジョラムとか、セントジョーンズワートとかって言われたら、おしゃれでいいなと思ってしまう。けれど僕らはあえてヒキオコシとか、ケツメイシとか、ガマズミとか、そういう日本のシブい薬草にこそ光を当てて、いい使い道をしたいと思っている。
ひとつ決めているのは、世の中のニーズから作るということをしないこと。徹底して調べないし、感じないし、そもそも知らない。
そんな僕が、最近ハマっているのがウイスキーだ。
始まりはふと「パンのような香りのするウイスキーができないだろうか」と思ったのがきっかけだった。ウイスキーは、大麦の種を発芽させ乾燥させた「麦芽」から作られる。パンもまた同じ麦由来なので、きっとあの独特のこうばしい香りが醸せるのではないかと思ったのだ。
しかし巷に出回るウイスキーはおもにピートなどでの香り付けや、熟成期間といったところに価値が置かれ、原料そのものについて言及されることが少ない。その理由を紐解くと、麦芽にする工程(モルティング)が機械化され、かつほとんどを海外からの輸入に頼っているからだということがわかった。
ならば、自分たちで麦からウイスキーを作ってみようと思った。
自分たちで畑を借りて、大麦やライ麦を育ててみる。収穫した麦は乾燥させた後に、冬にたっぷりの水を含ませて日の光をあてる。しばらく経つと芽がビヨーンと生えてきて、どこまで使うか、どのタイミングで乾燥させるかを見計らう。
外国産の麦芽は、すでに根っこが取り除かれた状態で入ってくるけれど、自分でやると当然それらがついてる状態で、しかもけっこういい香りがする。であれば、あえて使ってやってみたらどう変わるだろう、と今は実験をしているところだ。
結局は「みんながやってる理由がわかったね」って話だけかもしれないけども、それも含めて、自分で試してみないとわからない。
さらにその過程を伝えることで「ウイスキーなんてあんまり」と思ってる人が、何か興味持つきっかけとなってくれればいい。
まずはひとつひとつの工程を疑ってみることから始める。たどって、分解し、できるところまで自分たちでやってみる。
そんなふうにして、僕らはここで日々を営んでいる。