第一話
自分もいいと思っていても、
人には絶対に言いたくない。
小谷実由 | モデル/文筆家
1991年東京生まれ。14歳からモデルとして活動を始める。自分の好きなものを発信することが誰かの日々の小さなきっかけになることを願いながら、エッセイの執筆、ブランドとのコラボレーションなどにも取り組む。 猫と純喫茶が好き。通称・おみゆ。 2022年7月に初の書籍『隙間時間(ループ舎)』を刊行。
私が人生、最初に熱中したのはアイドルだった。
モーニング娘。とかSPEEDとか、自分と少しだけ年が近い女の子たち。衣装がかわいくて音楽も素敵で、ダンスもカッコよかった。ただ私は運動神経も全然よくないし、なりたいというよりも、ただただ憧れてしまった。
ネット環境もないので、情報は雑誌かブロマイドで。写真を集めて、並べて、ながめて、をひたすらやった。
たとえばメンバーが10人いたとしたら、衣装が5パターンあって、この子とこの子は同じ色、この子はパンツだけど、この子はワンピースとか。対になるものを合わせて楽しむのが好きだった。
いま思うと少し変わっていたかもしれないけれど、それでも基本は「みんなも好きなものが、私も好き」という感じだった。ところが中2の頃くらいから、みんなと同じものがいやになった。誰かがいいと言ったものが、自分もいいと思っていても、人には絶対に言いたくない。そんなこじらせた気持ちが芽生え始めた。
この頃から、音楽をよく聴くようになった。とくに親の影響で60年代のロックが好きになり、好きなバンドがしているファッションや、ヘアスタイルや、メイクにも興味を持った。しかもそれらを鑑賞して楽しむだけじゃなく、自分も身に着けたい、要素を取り入れたいと、古着屋に通いつめたり、前髪をガタガタに切ったり、こっそりピアスを開けたり。
さらに学校のノートやバッグ、上履きなど、どんなものにも好きなバンドの名前を書いた。それは誰かへの意思表示というよりは、自分の目をよろこばせるためだった。むしろ誰に何を言われようと関係ない、完全に自己完結した世界にいた。
と、言いつつもその実「個性的だね」と思われたかった、そこに執着していただけなのかもしれない。
大人になった今、振り返ると、そんな当時の自分を愛おしいなと思うし、無我夢中な姿が羨ましいなとも思うのだった。
中学の頃から背が高かった私は、モデル事務所に入った。
ブロマイドを集め、衣装のバランスを考えて楽しんでいる頃から服が大好きで、モデルになったらたくさんの素敵な服を着ることができる!と思ったのがめざしたきっかけだった。
所属したばかりの頃はレッスンに通い続ける日々で、仕事はもちろん全然なかったし、他に好きなこと、やりたいことがたくさんあったので、そんなに真面目なほうではなかった。オーディションに行って、ガタガタの前髪を見て「個性的だね」と言われることで、どこか満足していたところがあった。
その潮目が変わったのが、たしか18の頃だった。