第三話
古いものは、移動距離に比例して買えるもの。
それだけは明確に言える。
この仕事のために僕は今まで、かなりの時間とお金を使ってきた。
とくに古いものは、移動距離に比例して買えるもの。長くやってきていて、それだけは明確に言える。
今はネットがあれば、ある程度情報が得られるようになってきている。けれど僕にとっては、どこか平面的な感じがして面白くない。情報は頭の中にあっても、そのまわりにあることは、やっぱり動いて、ちゃんと肉眼で見たり、触ったりすることでしか得られない。
家のドアから出て、飛行機に乗って、レンタカー借りて回って、そこで食べたものの匂いとか、駐禁切られたりとか、そういう旅の思い出と、ものがワンセットになっている。
究極を言うと、これからはお店だって必要ない、と言えるかもしれない。だけどいつの時代も骨董屋はあるし、人が古いものを求めている限り、これからも絶対に残っていくだろうし、残していかなきゃいけないとも思っている。
好きな人が来て、おしゃべりをして、キャプションには書けない情報も直接伝える。人同士のコミュニケーション。それが店の仕事であり、役割だと思う。
ネットが悪いわけではない。けれどそこの差は出やすくなっていて、より顕著になってきている気がする。便利になると、人はアグレッシブさや、クリエイティブなマインドが乏しくなる。唯一無二のものが、作れなくなってしまう。
ある作家が言っていた言葉を思い出す。「不便な時代ほど、いいものが作れる」と。
だから僕は、古いものに惹かれてしまうのかもしれない。
PROFILE
郷古 隆洋 | Swimsuit Department代表
ユナイテッドアローズ、ランドスケーププロダクツを経て2010年にSwimsuit Department設立。ヴィンテージ雑貨などを販売する「BATHHOUSE」を運営。店舗のインテリアコーディネートなども手がける。