第二話
かくして私のアルファベットへの
コンプレックスはなくなった。
1年か2年、とりあえず英語で日常会話ができるようになりたい。最初はそんな、軽い気持ちだった。
まず入ったのは、ニューヨークの語学学校。1年間は真面目に通ったけれど、やがて「私が使いたい英語はここで学べない」と、はっきり悟った。
本当は働いてみたい。けれどビザの問題でそれはかなわない。いや、インターンだったら働けるのでは?と、ユニオンスクエアにある「ABCカーペット&ホーム」の扉をノックした。
そこはインテリアの家具や雑貨を扱う老舗デパートで、クリスマスのホリデーシーズンには、ものすごいお金をかけて作るウィンドウディスプレイが有名だった。規模は大きいけれど、どこか手作り感もあり、私はそこに強い興味を抱いた。
ポートフォリオを見せて担当者にアピールすると「給料は払えないけれど、それでもよければ」と言われ、採用となった。そしていざ入ってみると、もともと手先は器用だった上、細かい作業はオリーブ時代に鍛えられていた私は、失礼かもしれないけど、こう思った。「私のほうが仕事できるじゃん」。それをディレクターが見ていて、どんどん仕事を社員ではなく私に振ってくれて、ついにはサブウインドウのディスプレイを任されるようになった(インターンなのに!)。
営業後、深夜の売り場をめぐっては、好きなものをショッピングカートにどんどん放り込む。大きな家具は「これとこれ」とスタッフに言うと、すぐさま運んでくれた。そうして集められたものを使い、ディスプレイのイメージを作っていった。「酔っぱらって帰って来たあと」という設定で、靴下が脱ぎ捨てられたリビング、グレーっぽいグリーンと赤といったテーマカラーを決め、静かなクリスマスの夜をイメージしたベッドルーム……。スタイリスト時代、シーンやストーリーを作ることは好きでよくやっていていたので、お手のものだった。そして枕もとには日常のリアルなワンシーンとして、英字新聞を置いた。
かくして私の、アルファベットへのコンプレックスはなくなった。