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第三話

誰かにはゴミかもしれないけれど、
誰かにはミュージアム級の価値がある。

ニューヨークには、のべ20年いた。その間いろいろなことをやってきた。とくに面白かったのは「YUKI & DAUGHTERS」という屋号で作り始めた布のフードオブジェ。また食と食にまつわる印刷物を自費出版する「All-You-Can-Eat Press(オールユーキャンイートプレス)」。自らの足で歩き、口に入れたドーナツやハンバーガーなどのお店を網羅した、マップのシリーズを出した。

実はこれを作る前、スウェーデンの会社に依頼され、同じテーマでアプリを作ったことがあった。私が本当においしいと思う店をシチュエーション別に約200軒、半年ほどかけて撮影し、文章を書いた。だけど、手にとって実感できる達成感がなかった。「これは違うなぁ」となり、紙の地図を作ることにした。

形を決めるにあたり、考えたのは送料についてだった。ペン一本でも海外発送だと10〜20ドルはかかるのに対し、ラージレターで送れるサイズにすることで、当時は国内なら90セントで、海外でも3ドル20セントで送れる。たとえばそれが南アフリカであっても同じ金額だというのは夢があると思った。

いい意味で安っぽい、ざらざらとした紙を選び、あえて2色刷りで作った。最初の1年間は折りのできる会社がなく、全部自分で手折りした。ただこうした手作業は得意なので、さして苦ではなかった。小学校の時に入っていた新聞部の延長のような気分で、むしろ楽しかった。

発足してから10年と少し。いつか私の作ったマップが、どこかのフリーマーケットに出されているとうれしい。

2022年に日本に帰国し、福岡で暮らしている。

今、楽しいのはセレクトショップ「DICE&DICE」のひと棚を使った「Wunderkammer Fukuoka」のプロジェクトだ。

本棚の空いた隙間や、机のデスクのライトまわりなどに、ガチャガチャといろんなものを飾る。自分だけがそのストーリーを知っているこの場所を、私は「神棚」と呼んでいて、国内外で知り合った面白いアーティスト、クリエイター、ベンダーさんたちの作品で、小さな博物館のように「神棚」を作るというものだ。

これらは、誰かにとってはゴミかもしれない。だけど誰かにとっては、ミュージアム級の価値がある。

そしてその価値は、きっと自分で決めていいはずだ。

PROFILE

松尾由貴 | YUKI & DAUGHTERS

架空のグロッサリーショップ「YUKI & DAUGHTERS(ユキ&ドーターズ)」主宰。「ALL YOU CAN EAT PRESS」という屋号でニューヨークのドーナッツやハンバーガーなどローカルフードを紹介するハンドマップも制作。編集者、アーティスト、スタイリスト、デザイナーなどその活動は多岐にわたる。

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